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神戸地方裁判所 昭和24年(行)12号 判決

主文

被告が別紙目録記載の土地について昭和二十四年一月二十九日兵農委発第五二号をもつてなした訴願裁決再審議陳情に対する決定の取消請求は、これを棄却する。

右土地について、被告が同二十三年十二月二日なした原告の訴願棄却の裁決、並に兵庫県美嚢郡別所村農地委員会が定めた農地買収計画の各取消請求の訴は、いづれもこれを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「(一)被告が別紙目録記載の土地について昭和二十四年一月二十九日兵農委発第五二号をもつてなした訴願裁決再審議陳情に対する決定は、これを取消す。(二)右(一)の請求の理由がないときは、右土地について被告が同二十三年十二月二日なした原告の訴願棄却の裁決、並に兵庫県美嚢郡別所村農地委員会が定めた農地買収計画は、いづれも之を取消す。(三)訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

兵庫県美嚢郡別所村農地委員会は、昭和二十三年十月二十日頃、別紙目録記載の土地を原告所有の農地と認定した上その買収計画を決定公告したので、原告は、右買収計画に対し同委員会に対し同委員会に異議の申立をなしたが、同年十一月六日却下されたから、之を不服として更に被告に訴願したところ、同年十二月二日之亦棄却の裁決を受けた。

そこで、原告は同月中旬被告に対し右裁決につき再審議の陳情をなしたところ、昭和二十四年一月二十九日附兵農委発第五二号をもつて「原告の陳情した理由は認め難く、前決定通り買収すべきものであるが、原告が昭和二十二年十二月前所有者近藤とみゑから本件土地を原野として取得した所有権は、農地調整法に違反したものであるから、その所有権移転登記はこれを抹消し、前所有者から買収すべきものとする」旨の決定書を被告から受領した。ところで、右決定は、原告の陳情に基づいてなされたものとは云え、その実質は昭和二十四年法律第二百十五号による改正以前の農地調整法第十五条の十八第一項に基く再議決であり、仮にそうでないとしても、同法に認められた再審議決定であり、且つ、右決定は前訴願裁決と一致していないから、前裁決はこゝに取消され右決定のみが効力を有し、それは原告に対し、本件土地の所有権取得を否認する効力を有する行政処分と謂はねばならぬ。然しながら、右決定は、買収すべきでない土地を農地と認定し、その所有者を訴外近藤とみゑと認定した違法がある。すなわち、本件土地は、昭和九年頃訴外田中彌蔵において前所有者と小作契約を結び耕作していたことはあるが、省線石野駅の構内地に接続しているところから、その後附近に建造物も漸次増加し周囲の環境からして農地としての条件と価値を失うに至り、同十二年以来全く収獲出来ない状態となり、もつとも同十八年頃食糧増産のため婦人会が開墾して麦蒔をしたこともあるが収獲皆無に近く、同二十年二月頃からは軍が土木資材の置場に使つていた実情にあり、一方原告は、右石野駅前で農器具製作工場を経営し、作業場、倉庫の敷地として本件土地を必要としたので、別所村農地委員会に、右土地が原野であるとの承認を得た上、同二十二年十二月十日、その所有者近藤とみゑから右土地を買受け所有権移転登記を完了したものであり、当時右土地は地図は勿論、現況も農地ではなかつたのである。従つて本件土地は原野であつて農地買収の対象となるものでないのみならず、原告の所有権取得は、何等調製法に違反するものでもない。もつとも、訴外宮脇恒生が、昭和二十二年十二月三十日から右土地の一部を、同二十三年十二月二十三日から残余の部分を、それぞれ開墾耕作しているが、何等正当の権限に基くものではないから、これが為右土地が農地となることはない。以上の理由で、被告のなした再審議陳情に対する決定は、違法の行政処分であるから、その取消を求める。

仮に、右決定により、前記被告の訴願棄却の裁決、並に別所村農地委員会の買収計画が取消されたものでないとすれば、右裁決及び買収計画は、前記の理由により、本件土地を農地と認定したか、乃至は農地であるとすれば、その所有者を、訴外近藤とみゑでなく、原告と認定した違法があるから、その取消を求める次第であると述べた。

被告指定代理人は、「本訴はこれを却下する、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

美嚢郡別所村農地委員会が原告主張の各日時、本件土地につき原告主張のような買収計画を決定公示し、之に対する原告の異議申立を却下する旨決定したこと、被告が原告主張の頃、右決定に対する原告の訴願を棄却する旨裁決したこと、更に被告が、右裁決に対する原告の再審議陳情は、その理由を認め難い旨決定通知したことは認める。然し、右決定は、法令を適用してなした行為ではなく、法律上の効果発生を目的としてなしたものではないから、行政事件訴訟特例法に所謂行政庁の処分に該当しない。従つて、再審議陳情に対する決定の取消を求める原告の請求は失当である、と述べた。

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